大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)130号 決定

抗告人 阪神商事株式会社

利害関係人 織田敏夫

主文

原決定を取消す。

本件を神戸地方裁判所へ差戻す。

理由

抗告人は「原決定を取消し、本件不動産の強制競売を開始する」との裁判を求めその抗告理由は「原審は本件公正証書は民事訴訟法第五五九条第三号所定の債務名義としての要件を具備しないものと断じ、強制競売の申立を却下せられましたが、右は同号所定の要件を具備する有効な債務名義であると思料するので本件抗告に及んだ次第である」と言うにある。

よつて案ずるに、本件公正証書の内容は原決定理由摘示の通りであつて、これによれば本件公正証書は昭和三〇年四月一八日抗告人と利害関係人外三名との間に成立した金銭消費貸借に基いて利害関係人等が連帯して元本金六五、〇〇〇円とこれに対する遅延損害金なる一定の金額を抗告人に給付すべき請求について作成せられたものであり、同公正証書に記載の利害関係人等の強制執行受諾の意思表示は右請求について公証人に対してなされたものと判定し得られる。右公正証書作成当時右元本若くは遅延損害金請求債権の一部でも残存する限り、仮令その金額が証書上明確でなくても、右は本件公正証書が一定の金額を給付すべき請求について作成せられたとの前段の判定を妨げるものではなく、抗告人と利害関係人等が本件公正証書の作成を嘱託したことに徴して当時右元本若くは遅延損害金請求債権の全部又は一部は存在していたと推定すべきである。尚右公正証書はその作成当時右一定の請求金額中弁済等によつてすでに消滅していた部分についても債権者に強制執行を許し、以て抗告人に不当利得を認容するものではなく、債権者は執行当時有する請求権についてのみ公正証書によつて強制執行をなし得る趣旨において作成せられたと解すべきである。

叙上の次第であるから本件公正証書は民事訴訟法第五五九条第三号所定の債務名義である要件を具備していることが明かであり、これに反する見解の下になされた原決定に対する本件抗告はその理由があるので右決定を取消し、本件については尚他の点について審理の必要があるのでこれを原審に差戻すべきものとし民事訴訟法第四一四条本文第三八九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 神戸敬太郎 金田宇佐夫 鈴木敏夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例